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企業経営者の皆さまへ:モンゴル刑法における脱税罪の内容

Posted by: Alison&Kate Partners
Date: 2025-10-20
企業経営者の皆さまへ:モンゴル刑法における脱税罪の内容

執筆者: 弁護士 R.ニャムツェレン

平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げる。このたび、法的知識を平易かつ分かりやすく提供することを目的として、AKP法律事務所が発行する定期記事を読者に届けることができることを大いに喜ばしく思う。

本稿は、法人の代表取締役および経営幹部において頻発する脱税罪について、その概要と予防方法を簡単に紹介するものである。

本記事は、以下の内容から構成される。

  1. 事業と税

  1. 脱税罪および税法令違反の行政違反

  1. 経営者に責任が課された事例

  2. 法人経営者への注意喚起

 1.    事業と税

事業の遂行と納税は表裏一体である。すなわち、会社を設立して事業を行い、利益を得る以上、適法に収支を真実かつ正確に申告し、所要の税を納付することは不可避である。これは世界のいずれの国にも共通する制度である。事業活動においては、税務当局に複数の税を納付する。最も知られているのは法人所得税であり、ほかに付加価値税(VAT)、従業員を雇用する場合の個人所得税、不動産や自動車等の固定資産を保有する場合の不動産税・車両税などがある。これらの税を軽減又は不払にする目的で、所得や資産を真実に申告しない、または正当な税を納付しない場合、どのような法的責任が生じるのか。実務上、法人の経営者や代表取締役が、自覚のないままに脱税罪や行政違反の調査対象となることがある。かかる刑事・行政手続は、経営陣の生産性を低下させ、重大な金銭的・精神的負担をもたらし、場合によっては会社の業務を遅延させ得る。このため、代表取締役・経営陣は、脱税罪および税法令違反の行政違反に関する基本的理解と、その予防に関する知識を備えることが重要である。

 

2.    脱税罪および税法令違反

モンゴルの刑法と軽犯罪法は、ともに税に関する行為の責任を定めている。具体的には、刑法18条3項が脱税罪を規定し、軽犯罪法は行政上の責任を定める。

法律

刑法

条文

刑法18条3項 脱税

1.納税者または法人の管理・執行権限を有する役員が、脱税の目的で、多額の税が課される所得・財産・物品・サービスについて故意に虚偽の申告をし、又は隠匿したときは、451単位から5,401単位に相当する罰金、240時間から720時間の社会奉仕、又は1か月から1年の移動の自由の制限に処する。

責任主体

代表取締役、取締役会の取締役、その他の権限ある役員たる自然人が刑事責任を負う。

主観的要件

行為の目的は脱税でなければならず、故意によることを要する。

客観的要件

1.隠匿又は虚偽申告された課税所得・財産・物品・サービスの額は「多額」であること。刑法2条5項4号によれば、「多額」とは5,000万トゥグルグ以上をいう。

2.行為態様は、「故意の虚偽記載」(申告・帳簿に虚偽又は誤りを記載)又は「隠匿」(会計・財務諸表に一切計上しない)である。

 

保護法益

法定の納税秩序。


税に関する行為が刑事犯罪の構成要件に達しない場合には、軽犯罪法11条19項に基づき、法人に行政責任が課される。すなわち、申告遅延、納付遅延、税務調査の受入拒否、出頭要請への不応、VATの不発行等に対し、過料や追徴課税がなされ得る。

 

3.    経営者に責任が課された判例

以下は、会社の代表取締役・経営陣・会計責任者たる権限ある役員に対し刑罰が科された裁判例である。

判例1 付加価値税の架空入力

【事実関係】

被告人 D.M. は「O T T」有限会社の取締役であり、同社は「バルス市場」において青果の卸売を営んでいた。D.M. は2022年8月頃、SNS 上の「付加価値税の余剰を入力します」との広告を見て連絡を取り、自己の会社につき、2022年年末及び2023年第1四半期の申告期間に、A 有限会社から6通の請求書により618,181,816トゥグルグ相当の商品・役務を購入したかのように架空の入力を行わせた。その結果、国家予算に対して納付すべき付加価値税額を61,818,179トゥグルグ減少させた。対価として、広告主と合意の上、入力総額の1.8%に当たる約1,100万トゥグルグを送金した。首都検察庁はD.M.の行為を刑法特別部第18条3項1号に該当するとして起訴し、事件を裁判所へ移送した。

 【第一審刑事裁判所】

被告人D.M.を、刑法特別部第18条3項1号が定める「課税対象となる法人の経営責任者が、納税を免れる目的で多額の課税所得を虚偽に申告または隠匿した犯罪」に該当すると認定し、有罪とした。判決において、被告人に対し6か月間の旅行の自由の制限刑を科し、さらにD.M.から61,818,179トゥグルグを徴収して税務総局に支払うよう命じた。

 【控訴趣意】

D.M. は弁護人を付さずに参加し、控訴において「架空入力の相手方に支払った1,100万トゥグルグを損害として回収したい。また、心疾患のため常時治療・医師管理を受け、症状悪化時に救急受診や中国への治療渡航を要する。ゆえに6か月の移動制限刑を罰金刑へ変更してほしい」と主張した。

 【第二審裁判所】第一審判決を維持した。

本件では、被告D.M. が 付加価値税の架空入力により税負担を減少させた結果、会社は付加価値税の追納を強いられ、税務当局による差押、事業活動の停止リスクを招来した。また、D.M. 自身も1,100万トゥグルグの追加支出を負担した。さらに、バヤンゴル区から出域不可とう刑事制限が、事業に深刻な支障を生じさせた。

出典: Монгол Улсын Шүүхийн шийдвэрийн цахим сан

 

判例2 付加価値税の架空入力

【事実関係】

D.T.はバヤンゴル区で事業を行う「A」有限責任会社の取締役として、多額の税負債を隠し、脱税目的で、2022年4月~6月の申告期間において、「B」有限責任会社からの31枚の請求書に基づき1,000,000,000トゥグルグ相当の物品・サービスを購入したかのように故意に虚偽申告し、他者に架空仕訳を行わせ、「仕入返品」欄に計上して付加価値税の納付額を100,000,000トゥグルグ減額したとして、脱税罪に問われた。首都検察庁はD.M.の行為を刑法特別部第18条3項1号に該当するとして起訴し、事件を裁判所へ移送した。

 【第一審刑事裁判所】

2022年6月の税務申告が修正申告されているか否か、されているならその理由等を明らかにすることが故意・動機の立証に不可欠であるとして、事件を追起調査に差し戻した。税法第31条1項は「納税者は翌課税年度まで申告の修正ができる」と定め、同31条2項は「課税額を減少させる修正を行う場合、一次資料および関連資料を添付して修正申告を提出しなければならない」と規定する。以上のとおり、法は申告の修正を可能としていることから、裁判所は、2022年前半の当初申告と修正申告の双方および関連の捜査行為を通じて、被告人の故意の態様と動機を確定すべきであると判断した。本件は動機の解明が不十分であるとして、再捜査に付された。

 出典:Монгол Улсын Шүүхийн шийдвэрийн цахим сан

上記2件の判例を比較すると、第1の判例では、被告人が弁護人の援助を受けずに関与して有罪となったのに対し、第2の判例では、弁護人の援助により真の動機の解明のため再捜査とする決定が得られた。

 

4.    法人経営者への注意喚起

実務では、しばしば刑法18条3項の実質的構成要件(5,000万トゥグルグ超か否か)に重きを置き、これを満たせば直ちに立件する一方で、行為の性質や動機の綿密な検討、財務鑑定意見と税務調査意見の金額差等の精査が不十分なまま捜査が進められることがある。

また、会計責任者といった権限ある役員が故意または過失により誤った申告を行うことがあり、その行為が真に犯罪的動機に基づくかは疑わしい場合がある。ゆえに、専門の弁護士に相談し、契約実務を法的に点検することが重要である。適法な事業モデルの設計、契約及びキャッシュフローの適正化により、租税回避ではなく適法な税制の恩恵を享受することが可能となる。

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